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企業がSDGsに取り組むためには-メリットや課題を把握し取り組みを成功させよう
2015年に国連で採択された「SDGs」。エネルギーや気候変動など地球規模の社会問題の解決に向けて2030年までの達成を目指して定められた国際目標です。この目標に向けた取り組みを経営に導入すれば、企業は新たなビジネスチャンスを創出できたり、社会的信頼を獲得できたりといったメリットを得られる可能性が高まります。
そこで今回は、SDGsの概要や取り組むための基本的な流れ、注意点について解説していきます。
1. そもそもSDGsとは
SDGs(エスディージーズ)とは「Sustainable Development Goals」の頭文字を取った言葉で、「持続可能な開発目標」という意味を持ちます。世界が直面する貧困や環境問題の解決に向けた国際目標として、2015年の国連サミットで採択されました。17個の目標と、達成に欠かせない169個のターゲットが設定され、2030年までの達成を目指しています。
SDGsは、2001年~2015年に8つの目標達成を目指した「MDGs(ミレニアム開発目標)」の後継として生まれたものです。ただ、MDGsは発展途上国における開発目標が主であったため、先進国にとっては課題に対する当事者意識や主体性を感じられないという課題もありました。SDGsでは、先進国にも関係する新たな側面を目標に盛り込み、「地球上の誰一人として取り残さない」ことを誓いとしています。
1-1. SDGsが注目された背景
2017年1月、世界の財界首脳らで構成される調査チームは、2030年までのSDGs達成で12兆ドルの経済効果、最大3億8千万人の雇用の創出が見込めるとの試算を発表しました。こうした効果がSDGsの注目の背景にはあります。
また日本国内では、仮想空間と現実空間の融合によりあらゆる社会問題の解決を目指す未来社会のコンセプト「Society 5.0」が内閣府から公表されたのを機にSDGsが注目されるようになりました。
自然と共存し持続可能な社会を目指す「Society 5.0」とSDGsの方向性は一致しており、Society 5.0で掲げる変革こそがSDGsの達成に欠かせないものであるとされています。
1-2. ESGとの違い
ESG(イーエスジー)は「Environment(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」の頭文字を取った言葉で、環境や社会、企業統治に対する企業の配慮や責任を示す言葉です。これら3つの要素は、財務状況以外で企業価値を図る際の有効な基準として投資家から注目されています。
SDGsは国単位での取り組みで、ESGは各企業による取り組みです。企業はESGを重視した経営を推進することで、投資家に対し高い企業価値をアピールすることができます。
1-3. CSRとの違い
CSR(シーエスアール)とは「Corporate Social Responsibility」の頭文字を取った言葉で、企業が持つ社会的責任を示します。利益にとらわれず、より良い社会を実現するために行うさまざまな取り組みを指します。
企業には、主にステークホルダー(利害関係者)の信頼を保つため、自社サービス・製品に対する説明責任を全うすることが求められます。利益を伴う企業活動であるSDGsとは異なり、CSRはあくまでも慈善的な活動の要素が強い点が特徴です。
2. SDGsを進めることによる企業のメリット
SDGsの推進は企業に多くのメリットをもたらします。具体的なメリットとしては以下の5つが挙げられます。
2-1.企業価値やイメージの向上につながる
SDGsを推進し取り組みを世間に浸透させることは、消費者の共感を得ることに繋がり、企業価値やイメージの向上に貢献します。
消費者の購買における判断基準が企業理念や活動、商品そのものの良さにシフトされるため、低価格競争に巻き込まれるリスクも減らすことができます。
2-2. 社員のモチベーションアップにつながる
SDGsの取り組みは社員のモチベーションアップにも繋がります。SDGsの8番目の目標には「すべての人が人間らしく働きがいのある仕事に就けること」が掲げられています。
つまり、企業がSDGsの取り組みを適切に実行できていれば、社員にとって居心地がよく安心できる職場を提供することができます。また既存人材の長期保有が実現すれば、リファラル採用のチャンスにも恵まれやすくなるでしょう。
2-3.新たなビジネス・事業機会につながる
SDGsの推進は新たな事業機会の創出に効果的です。SDGsが掲げる17の目標と169のターゲットは全世界で早急な対応が求められている課題です。解決に向けた取り組みをビジネスに組み込むことができれば、いままさに消費者が求めるサービスや製品を生み出すことができるでしょう。また、SDGsの推進は同じビジョンや志を持つ他社との新たなパートナーシップや事業展開の可能性も秘めています。
2-4. 人材確保やコスト削減が期待できる
SDGsの取り組みが浸透し企業のブランド力を高めることができれば、人材採用時の母集団形成が底上げされ、より自社にマッチした人材を採用しやすくなります。SDGsへの取り組みをきっかけに自社へ興味を持ってくれる人材が増えれば、これまで発掘が難しかった異なる属性の人材確保も期待できます。また、他社との差別化ができれば採用広告費や採用活動に伴う内部コストの削減も実現します。
2-5.リスク回避が期待できる
SDGsというと壮大かつ果てしないもののように思えますが、SDGsの成果は自社の経営にも好影響をもたらします。企業が課題解決の担い手となれば、結果として自社の安定的な経営が持続され、あらゆる経営リスクの回避に繋がります。
3.SDGsにおける企業の課題や注意点
SDGsの取り組みにおいては以下のような課題や注意点があります。
3-1.SDGsの認知や取り組みはまだ進んでいない?
一般財団法人日本立地センターが2020年度に中小企業500社に実施した調査では、SDGsの認知度は50.4%と約半数にとどまりました。このうち実際にSDGsへの取り組みを実施・検討していると答えた企業はわずか8.2%で、まだまだ取り組みが進んでいるとはいえない状況にあります。
企業のSDGs推進が進まない要因としては、「メリットが不明瞭」「資金不足」「具体的な目標やKPI設定が難しい」などの声が挙げられています。
3-2.取り組み方がわからない企業が多い
上記の調査によると、すでにSDGsの取り組みをはじめている企業のうち19.5%が「社内の理解度が低い」、14.6%が「何から取り組めば良いかわからない」と回答しています。社会的責任や持続的発展における重要性などといったSDGsの意義を理解していても思うように計画や実行に移すことができない企業も多いようです。
3-3.さまざまな人の協力が必要となる
SDGsの取り組みは一部の担当者のみで完結するものではなく、経営層から新人社員まですべての従業員の自発的なアクションが必要です。自治体や他社など組織の垣根を越えた協力体制をつくることで実現できる取り組みもあるかもしれませんが、関わる人が増えれば調整が必要になる箇所も増えるという点を理解しておきましょう。
3-4.会社の事業と合っていない
SDGsの取り組みは、自社の事業や派生する活動に紐づく範囲から構築する必要があります。事業を度外視した取り組みは前述のCSRに含まれます。
3-5.SDGsウォッシュと見なされる行為には注意
「SDGsウォッシュ」とは、取り組みの実態が伴わないにも関わらず実行しているかのように見せる状況を指します。多くのケースが考えられますが、以下のような判断基準が挙げられます。
- 事実を誇張した表現や曖昧な表現を用いている
- SDGsの理解が根本的に乏しく取り組みとして成立していない
- 取り組みは事実だが情報開示や取り組みの水準が不足している
- 取り組みにより別の新たな課題を誘発している
- 特定の取り組みでは成果を挙げる一方、別の取り組みでは課題を生み出している
経済活動に伴う多くの責任を背負う企業として、SDGsウォッシュと見なされる行為は避けなければなりません。
4.SDGsに取り組むための流れ
前述のように、SDGsの取り組み方について迷われている方もいるかもしれません。そこで、ここではSDGsの取り組みをスタートする際に押さえておきたい流れを紹介します。
4-1. 担当者の決定や体制を整える
まずは、SDGsの取り組みを牽引する担当者を決定します。複数名によるチームの編成が前提となり、経営に裁量を持つ役職者の参画も重要です。チーム体制が固まった後はスムーズな共通認識を持てるよう、基礎知識を習得することでSDGsの本質から理解を深めます。研修の機会を設け、メンバー全員で学びの時間を共有することがおすすめです。
4-2. 企業の課題や目的を洗い出す
SDGsの取り組み方を検討する前に、まず自社の課題を洗い出して目的を整理します。洗い出した課題はSDGsの目標のうち何に当てはまるのかを整理し、自社が貢献できる度合いを考慮します。その際には169のターゲットを意識し、自社の課題と照らし合わせるように進めるとスムーズでしょう。
4-3. 最終的な目標を明確化する
SDGsの取り組みにおける最終目標を具体的に定めます。現実離れした目標では意味を成さないため、あくまでも自社視点で実現可能な目標設定を心掛けます。この段階で、目標の達成期限と進捗具合を測る評価指標を設けておきましょう。
うまく目標設定ができない場合はSDGs関連のWebサイトを検索してみるのも一つの手です。さまざまな企業の取り組みを参考にすることで、自社に応用できる要素を見つけられるかもしれません。
4-4. 事業ごとに落とし込んでいく
ここまでの決定内容をSDGsの推進チームからそれぞれの事業部へ落とし込んでいきます。取り組みを効果的に進めるためには目標に適した部署が舵取りし、SDGsの意義や取り組みを全社に浸透させることが重要です。全従業員に当事者意識を芽生えさせ、能動的な人材へと成長を促すことが、SDGsの取り組みをより加速させます。
しかし、その状態に至るのは決して容易ではなく、発信し続ける根気強さと覚悟が求められます。定期的な取り組み方法の見直しや軌道修正も欠かせません。
4-5.取り組みに関する報告やコミュニケーション
SDGsの取り組みは定期的に社内外へ発信、報告するようにします。一定期間の区切りで効果を測定する仕組みを構築し、発信手段を精査しておきましょう。外部からの反響が見えたりステークホルダーとの意見交換が実現できたりすれば、客観的な視点を取り入れた新たな方向性を見出す機会にも恵まれます。形式的な報告では機会損失につながると認識し、有意義な報告を目指しましょう。
5. まとめ
SDGsの達成期限は2030年までとなっています。SDGsの取り組みにより新たなビジネス展開が期待される一方、世界規模の目標に対して一企業がどこまで貢献できるのかと悩まれる担当者もいらっしゃるかもしれません。しかし、SDGsの達成は一つひとつの企業の着実な積み重ねにより実現するものです。そして、社会問題に向き合う取り組みは、時代の流れに柔軟に応じる自社の経営姿勢をアピールする機会にもなります。
社会情勢を踏まえ効果的にSDGsに取り組みたいとお考えの際は、マイナビ顧問に在籍するプロフェッショナルにぜひご相談ください。