一企業に固執しない異色のビジネス人生
MT様は、ビジネス界で「企業再生人」と呼ばれる戦略家です。学生時代は弁護士→政治家志望でしたが、その実態を知るにつけ「私生活がなくなってしまう」との理由で進路変更し商社に就職。ビジネスの世界で類稀なる才覚を発揮し、転職と独立後はアジア圏を舞台に幅広いビジネスを展開。30代にして営業のノウハウ本を2冊上梓しています。2003年以降は飲食を中心に各大手企業に乞われる形で企業再生に尽力。まずは一社員やアルバイト、パートに混じりつつ、その実態をリサーチする徹底した現場主義と、冷徹に大局と照らし合わせて数字を読み取る分析力、解析力を駆使して、ごく短期間で大企業が陥りやすい弱点と盲点をさらし、「問題の真因」から仕組みの改革を施すことで数々の企業を再生してきました。「自分以上に実績を挙げた人間に会ったことがない」と言い切る豪胆さと、「でも、まだまだ井の中の蛙です」と自省する繊細さを合わせ持つMT様は、貴社の抱える問題点と解決策を提示してくれることでしょう。
PLで仮説、徹底した現場リサーチ主義
私はもう徹底した「現場主義」なんです。あとは過去5年間のPL(損益計算書)を見れば、その企業が抱えている大体のことは読み取れます。まず現場の状況を見て、自分の描いた仮説を検証しつつ、そこから改善点に着手します。上っ面だけの数字遊びでいじっても根本の解決には至りませんからね。以前、某外資系飲料メーカーに入った時は、まず20ヵ月連続で営業成績が最下位という営業所の所長にしてもらい、5ヵ月で5位、6ヵ月目からは1位にしたこともあります。常に店長や従業員の労働時間の問題に悩まされる飲食チェーンでは、まずストップウォッチを手に1日の作業工程のすべてを、10秒ごとに分解して、全労働時間の組み直しを行いました。その結果、労働時間を3ヵ月で40%削減できました。大きな組織ほど過去の慣習や成功体験に囚われすぎた結果、それをなぞることに時間を費やしてしまいがちです。上層部も現場も含めて、企業運営に最も大切な「考えること」を自ら放棄してしまっているケースが見受けられます。
人を「駒」とみず、活かす
どの企業でも短期間で成果を出していますが、そのような話を聞くと多くの人は、ワンマンで上位下達タイプと思いがちですが、私はそうではないです。一人でできることは物理的に限界がありますから、社員全員が同じ方向にベクトルを合わせて活動しなければ、短期間で成果など出ません。そのために、私は、戦略・方向性について「納得」させる作業にかなり力を割いてきました。組織なので、命令されれば取り敢えず人は動きますが、「納得」して活動するか否かで「結果」は大きく違ってきます。また、どの企業にも中途入社ですから、以前からいる人の方がその企業や組織を熟知しています。その中には「こうした方がいい」というアイディアを持っている人は多くいます。そのようなアイディアを全て吐き出させる「仕組み」を構築することに腐心しました。当然それらのアイディアを取捨選択しますが、社員のアイディアを次々に実現化すると、採用された人は当然ですが、周囲の人も含め俄然「やる気」になります。同様のことを言う企業は多くありますが、「結果」に結びつく「仕組み」になっているか、そのような「風土」になっているかを再考する必要がある企業は多いかもしれません。
企業はもっと「仕入れコスト」について真剣に考えるべき
机の上でなら、いくらでも綺麗な戦略は描けるものですが、多くの企業でその戦略が現場や組織に落とし込まれてないケースが多い。上からの指示を待つだけ、上っ面の会議を通過してきただけという無駄なミッションが増え、現場はさらに疲弊するだけです。仮に上のほうで、ちゃんとした戦略を立てていたとしても、それが現場まで落ちてこない理由を探すべきです。じゃあ、どこで消えたのか?改善点は上よりも現場サイドにいたほうが、よく把握できますね。例えば、私が長く関係した飲食業界でも、海外進出に失敗しているケースが多いんです。その理由はまず、海外で対応できる人材が少ない点が挙げられます。「日本ではこうだ!」と日本流のやり方をそのまま押し付けてしまっている企業も多く見られます。あとは仕入れや物流の仕組みができていないパターンですね。飲食に限ったことではないのですが、どんな企業であれ一番コストがかかっているのは材料等の仕入れです。その次が人件費です。不思議なことに、どの企業も仕入れコストに関してはいじらない。正確には「いじらない」のではなく「いじれない」のかも知れません。そこにメスを入れることで、業績は大幅に変わるはずです。
経営者に「キレのある戦略」「不退転の覚悟」はあるか?
私自身、恥ずかしながら、人生のある時期まで「売り上げ至上主義」の人間でした。売り上げさえ上がれば、他の色々なものも解決するだろう...と。その後に入社した飲食チェーンが逆に、お客様の方向をまるで見ていないコストコントロールだけの企業でして、そのおかげで両方のバランスが取れるに至ったわけです。あと「使えるお金に限界はある」ことは知っているのに、なぜか労働時間だけは「限界がない」と信じ込んでいるのも日本企業の悪癖です。時間もお金同様に有限です。「これだけしか労働に時間を使えない」というところから工夫が生まれてくるはず。会社を再生するためには、経営者側にも、それをやり抜く不退転の「覚悟」と、キレのある「ぶれない戦略」が問われます。改革には多かれ少なかれ批判が出るのは当たり前です。たとえ良い戦略を立てても、それを実行するまでに経営陣がぶれてしまったことで雲散霧消してしまった良き戦略も多いのです。改革リーダーの梯子を外すことなく、社内の批判勢力から全面的に守ることも経営者の重要な仕事です。経営者の皆様には「下が良くなれば、自分も良くなる」という発想を持っていただきたい。その発想にこそ企業発展のヒントが隠れていると信じております。
顧問プロフィール
元大手外食企業 M.T様
1961年、神奈川県横浜市出身。慶応義塾大学法学部法律学科卒。商社に勤務後、日系香港拠点の商社に立ち上げから参画しアジア圏を舞台に活躍。1994年に独立後は台湾国内のテーマパーク建設などのビジネス推進。2003年からはレインコートを思わせる名称の大手回転寿司チェーン、温かいイメージの大手弁当企業、スカッとさわやかな大手外資系飲料メーカー、上場企業などに、企業再生を目的に役員など破格の待遇で迎え入れられ、企業の組織変革に着手し、いずれも3年以内に大きな成果を挙げた。現在も複数の大手企業の顧問を兼務している。